万年筆を使い始めると、インクもいろいろ試してみたくなってくるのが人の性。しかし、ひとくちにインクと言っても、万年筆のインクには様々な色や性質のものがあります。
今回はそんな万年筆の性質をまとめてみたいと思います。
万年筆のインクは色が違うだけかと思いきや、実は性質がだいぶ違ったりします。組み合わせを間違えると、インク詰まりを起こしたり、下手すると万年筆がダメになったり、という悲劇が起こる可能性もあるので、基本的な知識をつけておきましょう。
インクの種類
万年筆のインクは「染料インク」と「顔料インク」の2種類に分けることが出来ます。また、「染料インク」の中には「没食子インク」が存在します。
- 染料インク
- 没食子インク
- 顔料インク
基本的にインクは「混ぜるな危険」だと思ってください。同じメーカーの同じシリーズのインクに入れ替える場合であっても、一回ちゃんと万年筆を洗浄してから入れ替えるようにすれば間違いないです。
染料インク
万年筆のインクはだいたい染料インクです。黒やブルーブラック、赤といったド定番の色の他、紫やオレンジなどがあるのは当たり前。中には絵の具のようにインクを混ぜて、オリジナルの色を作れるなんてものもあります。
こうしたカラフルなインクはだいたい染料インクです。
染料インクはこのように選択できる色の種類が多い一方で、顔料インクに比べると耐水性や耐光性が低いというデメリットがあります。つまり、水に濡れれば線が滲んじゃうし、日の光にさらせば線が薄くなったりするということです。
没食子インク
かつて、万年筆のインクの色と言えばブルーブラックが主流でした。公文書の記録には耐水性・耐候性が必要で、そのような性質を持ったインクの色がブルーブラックだったためです。書類のフォームで「黒か青のボールペンで」と指定されているのを見て「なんで青?」と思ったことがある人もいると思いますが、あれは万年筆が主流だった頃の名残と思われます。
この旧来のブルーブラックのインクは「没食子(もっしょくし)インク」と呼ばれたりします。「古典インク」「古典ブルーブラック」「古典BB」「化学インク」といった呼び名も「没食子インク」の事を指しています。
没食子インクは化学反応により、紙に色を定着させます。このため、一般の染料インクよりも耐水性が高めです。
顔料インクを万年筆に使用することが技術的に困難であった当時、青の染料とタンニン酸第一鉄を配合し、筆記後空気中で酸化されタンニン酸第一鉄となる のがこのブルーブラックです。インクあれこれ(インクに関するご質問)
「ブルーブラック」という名前は、書いたときは青色(ブルー)だけど、しばらく時間が経つと黒(ブラック)に変わることに由来しているらしいです。てっきり黒っぽい青色をしてるから「ブルーブラック」だと思ってました。「ブルーブラック」というより「ブルー/ブラック」ですね。
没食子インクは酸性
没食子インクは酸性であるため、使っているうちに万年筆に使われている金属製の部品が腐食してダメになる可能性もあります。鉄ペンユーザは気を付けた方が良いかも。でも、最近は鉄ペンも良くなってるのでそんな神経質になる必要はないという話もあったり。
心配であれば、没食子インクを出してるメーカーの万年筆を使うのが良いかもしれません。
ブルーブラックだからと言って没食子インクであるとは限らない
ちょっとややこしいのですが、「ブルーブラック」だからといって必ずしも「没食子インク」であるとは限りません。たとえば、セーラーやパイロットからも「ブルーブラック」のインクは出ていますが、それらは没食子インクではなく、ブルーブラック色をした普通の染料インクです。国内メーカーでは唯一、プラチナだけが没食子インクのブルーブラックを作っています。(逆に言えば、プラチナのブルーブラックは没食子インクなので購入の際は注意が必要。)
現在でも没食子インクを販売しているのは以下のメーカーです。(カッコ内は没食子インクの商品名。)
没食子インクが欲しければこれらのメーカーのブルーブラックのインクを購入しましょう。逆に、没食子インクではないブルーブラックが欲しい場合はこれらのメーカーを除外して選択する必要があります。
- プラチナ (ブルーブラック)
- ペリカン (ブルーブラック)
- モンブラン (ボトルのミッドナイトブルー)
- ローラー&クライナー (サリックス、スカビオサ)
顔料インク
染料インクは紙を染めることで色を付けます。一方、顔料インクは、非常に小さな色の付いた粒子を溶液中に分散させたものです。染料インクがコーヒーなら、顔料インクはタピオカ入りドリンクみたいな。
顔料インクで書くと紙の上に色の付いた粒子が付着した状態になります。このため、顔料インクは染料インクに比べて、にじみが少なく、耐光性も耐水性も高いです。長期に渡る保存が必要な文書に最も適したインクと言えます。また、染料インクと異なり、裏抜け(インクが染みこんで紙の裏面にも色が出てしまうこと)も少ないです。
もうみんな顔料インク使えば良いじゃん、と思っちゃうくらい良いことずくめのインクに思えますが、しかし、メリットがあればデメリットもあるのが世の常。顔料インクには、あまり色の種類がない、染料インクよりもインクが詰まりやすい傾向がある、といったデメリットもあります。あと、ちょっとお値段がお高い。
まとめ
染料インクでも、日にさらしたり、水に濡らしたりしなければ、そんなにすぐに消えたりはしません。書いたものをあまり頻繁に読み返すことがないようなもの(日記とか)なら、染料インクでも十分使えると思います。色や使える万年筆の幅も広いです。
後世まで末永く自分の書いたものを残したいなら、顔料インクを使いましょう。
一応、顔料インクや没食子インクなら公文書の記録にも使えると思います。(でも、そこは素直にボールペン使っとけば良いんじゃね?)
トラディショナルなスタイルにこだわる万年筆原理主義者は黙って没食子インクを使いましょう。ちなみに私は、ブルーブラックっぽい色をしてれば没食子でも染料でもどっちでもいい、なんちゃって原理主義者です。